イタリアのSUSHI事情 寿司ネタ編

日本料理の代表、寿司。世界各国で日本食ブームが起こり、寿司はもはや国際的にポピュラーな食べ物です。イタリアにももちろん寿司はあるのですが、現地の味にアレンジされ、日本のものとは違いがあり……。今回は、イタリアで寿司職人として働いたこともある筆者が、イタリアの寿司、いえ、SUSHIをご紹介します。

イタリアに寿司が来たのは?

イタリアで寿司が食べられ始めたのはいつなのでしょうか。

イタリアの最初の日本食レストランは、1972年に平澤稔さんというシェフがローマでオープンした「Poporoya」と言われています。ローマのその店はもうありませんが、ミラノに拠点を移した平澤さんは、1989年に寿司レストランを開業しました。イタリアで手に入るお米や、魚の種類の違いに最初は戸惑っていたようです。最初は日本人客が日本の味を求めて通う店でしたが、次第にイタリア人にうける味に近づけていき、イタリア人のお客さんも来てくれるようになっていったとのこと。イタリア人は一般に食に対して保守的ですので、イタリアに寿司を浸透させるのは大変だったのではと思います。

そして2000~2005年になると、今度は「Wok Sushi」という中華系経営のチェーン店が全国に広まりました。この中国人系列のお店の広がりにより、寿司という言葉がイタリアに根付いたのではないでしょうか。また、後で説明しますが、日本人経営と中華系経営のお店には違いがあります。

近年日本食がブームとなったきっかけは、2015年のミラノ万博の影響もあると言われています。日本の食文化をテーマにした日本館は、待ち時間が10時間に及ぶこともあったそうで、多くのイタリア人が日本食について知るきっかけとなりました。

握りではなくロールがメイン

では、イタリアの寿司とはどのようなものなのでしょう?

日本で寿司といえばまず握りですが、イタリアでは巻物が主流です。カリフォルニアロールという名前を聞いたことがあると思いますが、例えばこのロールはイタリアのロールのトップで、大体どこの日本料理レストランでもあります。巻物、ロールといっても、9割方は裏巻き。裏巻きは日本では馴染みがないですが、シャリがロールの表面、海苔が内側になるように巻かれたロールのことです。

カリフォルニアロールの他には、レインボーロール、ドラゴンロールなどがあります。スパイシーロール、ベジタリアンロール、それからマンゴーなどのフルーツロールがあるのも海外の寿司ならではという所ですね。

人気のネタはサーモン

イタリアで人気の寿司ネタは何といってもシャケ。日本でも確かに人気はありますが、イタリア人は寿司を食べに行くととにかくシャケを食べます。他の魚は食べなれていない、もしくは食べず嫌いで食べられないから、生の魚はシャケしか食べないという人も。スモークサーモンもまた、クリームチーズと合わせたロールとしてよく食べられます。

イタリアでは魚のネタの種類が少なく、シャケ、マグロ、スズキ、カンパチ、タイ、エビ、トビコ……このあたりの組み合わせで調理されます。タコ、イカ、イクラ、カニ、ウナギ、ホタテ、ウニなどを扱うレストランもありますが、少ないです。また、日本人の感覚からすると信じられないかもしれませんが、ネタは生魚だけではなく、アボカド、フィラデルフィア(クリームチーズの一種)、玉子焼、ゴマ、キュウリ、レモン、玉ねぎ、さらにはエビフライなどの揚げ物を入れることでメニューにバリエーションを出しています。

ソースのかかったおしゃれなロール達

ロールはかなり種類が多く、お店ごとにオリジナルのロールを出すこともあります。ロールはただ巻くだけではありません。ウナギのタレやマヨネーズなどで作ったソースや、スパイシーソースをかけることも少なくないのです。ソースをかけ、それから白ゴマと黒ゴマ、トビコを散りばめて。

ソースやゴマをかけることで見た目は派手に、オシャレになり、これはフランス料理か何か……?とまで思うこともあります。日本人からすると、日本の寿司とは違う、オリジナリティあふれたものになっていると感じます。これはこれでもちろんおいしいのですが。というより、別物としておいしい、と言った方が正しいのかもしれません。

中華系レストランで寿司!?

日本では寿司といえばまずお寿司屋さんですよね。でもイタリアはというと中華系レストランというチョイスがあります。「Ristorante giapponese(日本料理店)」や「Sushi」といった表示が店先にあるため一瞬日本人経営のお店かと思うのですが、中国人オーナーが日本風にやっているお店が多いのです。日本人は店に行けばここは日本系列ではないなと違和感に気づきますが、多くのイタリア人はよく分からないようです。寿司の看板はイタリアの街を歩くとよく見かけますが、そのほとんどは中華系なのです。

中華系の寿司屋の特徴というと、まず、食べ放題をやっているということ。「All you can eat」という表示があれば中華系です。そして値段。ランチは12€、ディナーは20€程度で食べ放題を提供しています。日本系列のお店は値段がもっと上です。中華系のメニューには、寿司、刺身、天ぷら、ラーメンといった日本食の他、中国料理もあります。船型の入れ物に寿司を載せて出すのも中国系ならではです。

醤油をたっぷりつけたがるイタリア人

日本人として不思議なのは、イタリア人と寿司を食べに行くと、醤油皿にたっぷりと醤油を注ぐことです。日本の感覚としては数ミリ垂らしてちょっちょっとつけていただく、というものかと思いますが、イタリア人はなぜか1センチくらい注ぎ続け、ひたすようにつけて食べる人が多いです。醤油の味に負けて魚の味がもはやしないのでは……!?と傍目で見ていてひやひやするほど。ちなみに醤油はキッコーマンを置いているお店が多いです。ワサビももちろん提供されます。

ワインとエスプレッソは寿司と合う?

寿司と一緒にいただく飲み物は?そこはやはりイタリア人、白ワインを合わせる人が少なくないです。イタリアでは魚介類の料理に白ワインを合わせるのが普通ですので、イタリア人は寿司にも白ワインを選びます。甘めの味わいのものより、すっきりした辛口を選ぶ人が多いようです。でも、イタリアで食べるといっても、わざわざ寿司を食べにくるわけですから、日本のお酒ももちろん飲まれます。日本のビールはアサヒとキリンが主流で、それに日本酒も。ノンアルコールとしてはお水が人気です。

それから食後には、エスプレッソコーヒーを頼む、これがイタリア流の寿司の食べ方です。食後にエスプレッソというのは、イタリアならではですね。

いかがでしたか?イタリアの寿司について解説してみました。私達日本人に馴染みのある寿司が、イタリアに来るとこのように変化しているのです。でもきっと大事なのは、イタリア人がおいしく寿司を食べているということ。伝統を守るのも重要ですが、海外では、現地になじみ、進化するということも時に必要なのです。進化したイタリアン寿司も楽しみたいものです。

 

この記事を書いた人
Kaho

2013年よりローマで暮らし、絵画修復学校を卒業。修復家、古美術商アシスタント、デザイン関係、料理人などの仕事をする。好きな芸術家はミケランジェロとエゴン・シーレ。ジャズクラブが大好きで毎晩通いたい。心がちょっと豊かになるような記事を皆様に発信していきたいです。
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