豚肉のいろいろな部分をちりめんキャベツなどの野菜と煮込んだ、ロンバルディア州の冬の郷土料理“Cassoeula”。ミラノはもちろんのこと、ロンバルディア州の他の地域でも愛されている煮込み料理です。
“Cassoeula”とは
“Cassoeula”は、ロンバルディア州の冬の郷土料理です。ミラノ料理として紹介されることもありますが、実際にはミラノだけでなくロンバルディア州の他の地域でも古くから愛されており、ロンバルディア料理といえるでしょう。地域によって少しずつレシピが異なり、様々なバリエーションがありますが、基本的には、豚肉のいろいろな部分(豚足、皮、リブ肉、豚頭肉、サラミソーセージなど)をちりめんキャベツ、人参やセロリや玉ねぎなどと一緒にじっくり煮込んだ料理になります。豚肉のいろいろな部分をつかい、また、約3時間は煮込む必要があるため、少し手間のかかる料理です。じっくり煮込むため、お肉の旨みが絡んだキャベツはトロトロに、柔らかくなったお肉には野菜の甘みが染み込みます。豚の脂身も多く入るため、ボリュームのある一品になります。日本人だけでなく、イタリア人にとっても少し重めに感じるお料理。しかし、じっくり煮込まれたアツアツの“Cassoeula”は、寒い冬に冷えた体を芯からあたためてくれます。
名前について
Cassoeulaとはミラノ方言での名前で、他にもCazzuolaやCasuola、Cassola、Bottaggioなど地域によって様々な名前があります。Bottaggioは標準イタリア語での名前だそう。レシピ本やレシピサイトでは、”Cassoeula”と表記されているところが多めです。イタリア語は基本的にローマ字読みに近い読み方で発音しますが、ミラノ方言のCassoeulaは発音の仕方もイタリア語とは少し違います。ロンバルディア州出身の身近なイタリア人たちの発音や、YouTubeなどの動画サイトで発音を確認したところ、「カッソーラ」や「カッスーラ」、「カッシューラ」のような発音でした。なかなかカタカナ表記にするのが難しいところですが、”Cassoeula”の”oeu”部分は、”ソ”と”ス”が混ざったような音で発音するようです。
家にあるレシピ本には、BottaggioとCassoeulaのふた通りの名前で表記されていました。Cassoeulaを通常のイタリア語読み「カッソエウラ」と発音したところ、ロンバルディア州出身のイタリアマンマには通じず。その時、筆者は初めてCassoeulaがミラノ方言で、発音も通常のイタリア語と違うことを知りました。
Cassoeulaの起源
Cassoeulaの起源には、いくつもの伝説がありますが、よく語られているのは、スペインの兵士がミラノへ持ち込んだという説です。20世紀初頭、ミラノで高貴な一家に料理人として使えていた女性に恋をしたスペインの兵士がいました。ある日、彼女は食料庫に材料がないことに気づき、兵士は彼女に豚肉の残りと庭の畑からいくつかの野菜を使って料理をすることを提案しました。彼女は、高級な材料ではなく、あまりもので作った料理を振る舞いましたが、彼女の主人たちは料理をとても気に入りました。このとき、彼女は兵士の求愛を受け入れることに決めました。
このように、Cassoeulaは20世紀の初めに誕生した料理とされていますが、聖アントニオ・アバーテ祭りにも関連していると言われています。聖アントニオ・アバーテ祭りは、1月17日に行われる伝統的な宗教行事。聖アントニオ・アバーテは家畜の守護聖人で、宗教画ではよく子豚を連れた姿が描かれています。1月17日は、その聖アントニオ・アバーテの命日で、動物が祝福を受ける日としてお祝いされます。古代では、1月17日は豚の畜殺期間が終わった日とされており、それを祝うためにcassoeulaの前身が誕生したと言われています。
地域による違い
Cassoeulaは、ロンバルディア州にルーツを持ちますが、似たような料理は他の国でも食べられています。そして、ロンバルディア州内でも、さまざまなバリエーションがあります。たとえば、コモ地域では、豚足や細かく切った野菜は使われず、白ワインで味がととのえられます。ノヴァラ地域ではガチョウ肉、ミラノ地域では豚頭が使われ、ブリアンツァ地域ではみじん切りの野菜を使いポレンタと一緒に食べることが多いよう。ベルガモ地域では、あまり汁気のないCassoeulaになり、ちりめんキャベツの他に普通の玉キャベツも使用します。パヴィア地域ではお肉は豚のリブ肉のみを使用し、ヴァレーゼ地域ではサルシッチャで作られたサラミソーセージが使われるようです。一口にCassoeulaといっても、様々なバリエーションがあるので、ぜひ食べ比べしてみたいところです。
この記事を書いた人
MAYUKO
初めての海外旅行で訪れたのはイタリア。そこからどんどんイタリアにのめり込み、大学院在学中にイタリア留学を決意。大学院での研究テーマはジュゼッペ・ヴェルディ。一度は日本へ帰国・就職するも、イタリアへの想いが忘れられず、2019年に再びイタリアへ戻ることを決意。現在ミラノ郊外在住。
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