かつては貧しい人々のための料理、今ではみんなに親しまれる料理。北イタリア、冬の定番料理 ポレンタについてご紹介します。
冬の定番料理 ポレンタ
ポレンタとは、穀物を挽いた粉をお湯に入れて煮込んで練り上げる、古代ローマ時代から続くイタリア料理です。ベースとなる穀物の中でもっともよく使われているのはトウモロコシで、「ポレンタといえばトウモロコシ粉を使った黄色い料理」という認識が一般的。アメリカ大陸からヨーロッパにトウモロコシが輸入されてくる前には、スペルト小麦やライ麦でつくられていました。ポレンタは、北イタリアの郷土料理ですが、南イタリアやヨーロッパでも広く知られています。うっすらとトウモロコシの味がするものの、基本的には淡白な味で、イタリアではお肉の煮込み料理やチーズなどと一緒によく食べられています。
今でこそ、広く普及しているポレンタですが、昔は貧しい人々の食べ物でもありました。現在と違い、彼らはポレンタのみを食していたため、ビタミンB欠乏によるペラグラという死に至る病気が蔓延することに。ペラグラ病は大きな社会問題になり、その後トウモロコシを使うポレンタは主食の座から退きました。しかし、今でも北イタリアの家庭ではよく食べられる冬の定番料理。ヴェネト州では柔らかめのポレンタ、ロンバルディア州では少し固めなど、各地によってさまざまなレシピが存在します。
キノコとチーズにポレンタが添えられたお料理。こちらのポレンタは、ヴェネト州でよく食べられる柔らかめのポレンタ。
ポレンタの上にキノコとサルシッチャ(ソーセージ)がのっています。ベルガモ(ロンバルディア州)近辺で食べられるポレンタは、ヴェネト州に比べて少し固め。
ポレンタの種類
一口にポレンタといっても、家庭の数だけポレンタの種類もあると言われるほど、ポレンタにはたくさんの種類があります。ここでは、代表的なものをご紹介したいと思います。
トウモロコシ粉を使ったベーシックな黄色のポレンタ。お肉やチーズ、キノコなどと一緒によく食べられています。
ポレンタ・タラーニャという、黄色いトウモロコシ粉に蕎麦粉を混ぜたポレンタ。北イタリアのヴァルテッリーナ地方でよく食べられます。蕎麦粉の割合が多くなると、より黒っぽい見た目になります。
バターや牛乳、チーズなどを混ぜて作られるポレンタ。地域によって名称が変わり、ロンバルディア州コモ湖付近ではポレンタ・ウンチャ、ヴァッレ・ダオスタ州ではポレンタ・コンチャと呼ばれています。このポレンタはスタンダードなポレンタと違い、ポレンタ単品で食べることもしばしば。
こちらは“焼きポレンタ”。ベーシックな黄色のポレンタを冷ましてから固めて焼いたものです。
ヴェネト州でよく食べられる白いポレンタ。黄色いポレンタより繊細で、薄い味わい。
家庭でつくるポレンタ
ポレンタは、沸騰したお湯に塩を加えて、ポレンタ粉を少しずつ振り入れ、練り上げながら煮るだけの比較的簡単なお料理。でも、意外と手間のかかる料理でもあります。なぜなら、伝統的なポレンタ粉を使ってポレンタを作る際には、約45分間、絶え間なく混ぜ続けなければならないからです。とはいえ、現代ではポレンタをつくる機械が販売されており、この機械を使えば、スイッチを入れ、放置しておいてもポレンタをつくることができます。しっかり混ざっているかどうか、たまに確認する必要はありますが、45分間ずっと鍋につきっきりということは避けられます。また、インスタントのポレンタ粉も販売されており、こちらを使用する場合には10分程度でできあがります。
出来上がったポレンタは、ポレンタ用のまな板に置き、食卓に並べられます。切り分ける際に活躍するのは綿糸。ポレンタの下に糸を通して、下から上に向かって持ち上げると、簡単にポレンタを切り分けることができます。
ポレンタをつくるための機械。スイッチを入れると、銀色の部分が回転して、ポレンタを混ぜてくれます。
ポレンタの形をしたドルチェ ポレンタ・エ・オゼイ(Polenta e Osei)
ポレンタといえば、今まで述べてきたとおり、トウモロコシ粉を使ったお料理ですが、実はポレンタという名前がついたドルチェも存在します。その名も“ポレンタ・エ・オゼイ”。
ベルガモの名物で、チョコレートやヘーゼルナッツクリームが入ったスポンジケーキをアーモンド味のマジパンで覆い、上に鳥の形をしたチョコレートをのせたお菓子です。もともと同名の野鳥をローストしてポレンタにのせた料理があり、この料理を再現してベルガモ名物のドルチェが誕生しました。ベルガモの街に行くと、ポレンタ・エ・オゼイがたくさんのお菓子屋さんのショーウィンドウを飾っています。
ベルガモ名物のドルチェ、ポレンタ・エ・オゼイ。オゼイは、ベルガモ方言で鳥を意味します。
ベルガモの街のショーウィンドウに並ぶポレンタ・エ・オゼイ。
この記事を書いた人
MAYUKO
初めての海外旅行で訪れたのはイタリア。そこからどんどんイタリアにのめり込み、大学院在学中にイタリア留学を決意。大学院での研究テーマはジュゼッペ・ヴェルディ。一度は日本へ帰国・就職するも、イタリアへの想いが忘れられず、2019年に再びイタリアへ戻ることを決意。現在ミラノ郊外在住。
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