生クリームたっぷりのマリトッツォ。そのルーツは古代ローマのアモーレにさかのぼり、今でもローマっ子に愛されるデザートのような甘いパンです。
マリトッツォ(Maritozzo)とは
マリトッツォとは、小麦粉、卵、はちみつ、バター、塩で作られたパンに生クリームがぎっしり詰められたイタリア・ローマ名物の甘いパンです。イタリア語では単数形だとマリトッツォ(maritozzo)、複数形だとマリトッツィ(maritozzi)と語尾が変化します。日本でも、原宿のイータリー、パン屋さんやカフェなど、マリトッツォを取り扱っている店があり、マリトッツォの購入が可能です。マリトッツォは、いまや、日本でも楽しめるイタリアのドルチェになりました。
マリトッツォといえば生クリームが印象的。しかし、実は、マリトッツォはパンの部分だけを指す言葉なのです。よく見かける生クリームが詰められたものは、正確にはマリトッツォ・コン・ラ・パンナ(maritozzo con la panna)。生クリーム入りのマリトッツォという意味になります。
Photo by MAYUKO
生クリームたっぷりのマリトッツォ。ローマではバールやカフェで簡単に見つけることができます。
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生クリームの下にピスタチオクリームが入ったマリトッツォ。生クリームだけが詰められたマリトッツォが定番ですが、カスタードクリームやチョコクリームなど、バリエーションに富んだマリトッツォも目にします。
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見かけより生クリームの口当たりは軽く、ぺろりと食べられるマリトッツォ。とはいえ、食後のデザートとしては少し重い印象のドルチェ。マリトッツォを食べたいけど、一つは食べきれない・・・なんて時は、誰かと分けて食べるのも一つの手。店員さんに頼めば、半分に切ってくれます。ハーフサイズが売っているお店もあります。
マリトッツォのルーツは古代ローマ時代
マリトッツォのルーツは古代ローマ時代まで遡ります。古代ローマ時代では、はちみつとレーズンなどのドライフルーツを使ったパンが普及していました。パンの大きさは、現代で見かけるマリトッツォよりはるかに大きかったよう。このパンは栄養価が高く、持ち運びしやすい食事として、外に働きに行く夫のために、妻が用意していました。このパンがマリトッツォのルーツだとされています。この時代のマリトッツォは、生クリームは挟まれておらず、はちみつやレーズンが使用されているとはいえ、甘さ控えめのパンでした。
食事からデザートへ
中世では、マリトッツォは労働者の食事から、デザートのような甘いパンになります。この時代にマリトッツォは小型化され、生地にはレーズンや松の実、砂糖漬けの果物が加えられ、より甘いパンになりました。マリトッツォは、断食や節制が行われる四旬節(復活祭前の40日)の期間で、栄養をとるために食べることを許可されていた食べ物。そのため、さらに多くの人がマリトッツォを作るようになりました。
名前の由来
マリトッツォという名前の由来は諸説ありますが、有力な説が二つあります。
ひとつは、3月の第一金曜日に男性が婚約者の女性にマリトッツォを贈っていたことに由来するという説。未来のマリート(marito、イタリア語で夫という意味)からのプレゼントなのでマリトッツォになったといわれています。プレゼントするマリトッツォの中には指輪やジュエリーを隠して入れていたそう。
二つ目は、結婚相手を探している女性たちがマリトッツォを作り、その町の若く素敵な男性にプレゼントし、男性は一番美味しいマリトッツォをつくった女性を妻として選んでいたという習慣に由来する説です。
現在のマリトッツォ
現代では、マリトッツォといえば、生クリームがたっぷりはさまった丸っこい形の甘いパンを想像する人がほとんどではないでしょうか。ローマほどではありませんが、他の都市でも、生クリームたっぷりのマリトッツォを取り扱っているお店を見かけます。この皆がよく知るマリトッツォ、実はローマ版で、他にもマルケ版やプーリア・シチリア版が存在するのをご存知でしょうか。マルケ版はコッペッパンのように細長い形でレーズンが入っています。一方、プーリア・シチリア版は、三つ編みパンで砂糖がまぶされています。牛乳やバターが使用されており、ローマ版のマリトッツォより柔らかいのが特徴的。
ローマ版以外のマリトッツォは、なかなか他の地域で見つけることは難しいですが、是非食べ比べしてみたいものです。
マルケ版(写真はLorenzo Vinci Italian Gourmet より引用)
プーリア・シチリア版(写真はLorenzo Vinci Italian Gourmet より引用)
この記事を書いた人
MAYUKO
初めての海外旅行で訪れたのはイタリア。そこからどんどんイタリアにのめり込み、大学院在学中にイタリア留学を決意。大学院での研究テーマはジュゼッペ・ヴェルディ。一度は日本へ帰国・就職するも、イタリアへの想いが忘れられず、2019年に再びイタリアへ戻ることを決意。現在ミラノ郊外在住。
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