イタリアの中庭コルティーレとは..イタリアの建築物でよく見かける、四方を建物で囲む中庭、『コルティーレCortile』(もしくはコルテCorte)をご存じでしょうか。日本では『パティオ』というスペイン語名が主流ですね。そんな西洋の中庭のルーツを検証してみましょう。
マンダリンオリエンタルミラノ Photo by posh.it
コルティーレの魅力はコレ!
建物に明るさや換気をもたらすオープンスペースとして設計されるコルティーレ。イタリア以外にもギリシャ、スペイン、イスラム圏などの気温が高い地域によく見受けられるのは、建物の風通しと光を建物内部に取り入れることができる画期的なアイデアと言えるでしょう。日本でも一戸建て住宅にコルティーレを取り入れたり、コルティーレ付きマンションに人気が集まり、コルティーレの需要が増えていますね。
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コルティーレはいつから?
古代ローマの建築物に中庭はある?
古代ローマ時代の建築物では、すでにコルティーレに類似する、列柱で囲まれたスペースの中央に庭園や果樹、噴水、プールなどを配置した、コルティーレの元祖とも言えるであろうペリスタイル(伊/ペリスティリオPeristilio)という建築スタイルが存在しています。
地方の田舎では、庭は家の外に配置していたようですが、ローマやその近郊都市では、ポンペイにあるヴェッティイの家(伊/Casa dei Vettii)のように、屋根のついた柱が家の壁として機能し、中庭を有していました。この屋根付きの柱は、のちにモザイクやフレスコ画で装飾された、玄関ポーチを生み出すきっかけになったようです。
ヴェッティイの家復元図 Photo by romanoimpero.com
古代ギリシャの建築物に中庭はある?
古代ローマに支配される前(紀元前146年より前)の古代ギリシャの建築物はというと、神殿を列柱で囲むギリシャ神殿、例えばパルテノン神殿(紀元前488年より建造開始)もペリスタイルと定義することができそうです(正確には配置する柱のバリエーションで様式名が変わります)。ちなみに古代ローマに支配された後は、前述のような古代ローマペリスタイルに近い中庭が主流になっていきます。
パルテノン神殿復元図 Photo by viaggioinbaule.it
エジプトの建築物に中庭はある?
では古代ローマや古代ギリシャよりもっと昔、エジプト建築でのペリスタイル(らしきもの)は存在するのかというと、エジプト、ルクソールにあるルクソール神殿にも、列柱(もしくは屋根や壁のついた列柱)で囲まれた中庭があったようです。そしてエジプト神殿で重要な、彫像や祭壇のある至聖所が、中庭と直結されていることもあります。
ルクソール神殿のアメンホテプ3世の中庭 Photo by hellotravel.com
中世~ルネッサンス期の建築物に中庭はある?
中世~ルネッサンス期も、前述のペリスタイルを受け継ぎ中庭文化は続きます。ヨーロッパのお城や要塞などには、前アーチやアーケードのない中庭が多かったようですが、ルネッサンス期では、アーケードのある屋根付き中庭が再び人気をもたらしました。
ダル ヴェルメの屋敷の中庭 Photo by milanodavedere.it
そしてロンバルディア州近郊の農村部にも中庭はあります。中庭は農作業、厩舎等のオープンスペースとして、また居住スペースとしても活用されていたようで、コルティーレと同様の意味を持つ『コルテ』は家自体を示すこともあります。広い中庭には、教会を建ててしまうこともあったそう。そして多くの場合、厩舎や農場に向かってU字型に開いていました。
ロンバルディア州の農村部の中庭 Photo by wikiwand.com
宗教建築物に中庭はある?
教会や修道院ではどうでしょうか。やはり屋根付きの列柱で囲まれた回廊があり、噴水のある中庭スペースをよく見かけますね。噴水は沐浴のために、また洗礼前の信者の待機スペースなどに利用されていたようです。
サン シンプリチャーノの大回廊 Photo by milanocittastato.it
石庭、日本庭園のある日本の寺院はどうでしょうか。片面に建物、庭の3辺を壁で覆う形状、四方を建物で覆う形状とどちらも存在しますね。日本の中庭は規模により、その四方から眺めるタイプと中庭を散策しながら楽しむタイプに分かれますね。
建仁寺潮音庭 Photo by kenninji.jp
イスラム建築のモスクや宮殿、要塞にもやはり中庭があります。
アルハンブラ宮殿リンダラハの中庭 Photo by Jeera
ヒンドゥー寺院にも、屋根のついた列柱で囲まれた中庭があります。
ブリハディーシュヴァラ寺院 Photo by Jeera
現代に受け継がれるコルティーレ
イタリアのアパートの大多数にコルティーレがあると言っても過言ではないかもしれません。4つの別々の入口の異なるアパートが、同じコルティーレを壁でそれぞれ4分割し、共有していたり、大きさもそれぞれ、形も正方形、長方形に留まらず建物に合わせた形に作られ、芝が敷き詰められている所もあれば、石のモザイクなど、いろいろなバリエーションがあります。
ミラノ歴史地区上空 Photo by earth.google.com
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コルティーレを利用した素敵なレストランやカフェもありますね。
ミラノセレクトショップ Corso como 10 Photo by flawless.life
そして、ラテンアメリカ諸国の植民地時代の建築様式によく見られる、噴水や植物が豊富に飾られた中庭が多い、スペインのパティオも、今もなお受け継がれた建築様式と言えるでしょう。
コルドバのパティオ祭より Photo by it.wikipedia.org
さいごに
イタリアの歴史地区の建築基準として、通りに面した建物の側面には水、ガスの配管やエアコン室内機、電線すら設置することが制限されています。イタリアの街並みが美しく保たれている一つの要因ですが、では、電線、配管、エアコン室外機、洗濯物等はどうなっているのかというと、このコルティーレに面した、壁を利用していることがほとんどです。共有のゴミ置き場や自転車置き場も、大抵このコルティーレに設置されています。大きなコルティーレを所有している場合は、車庫もあります。ない場合は、みなさんもご存知のように路駐、、ですね。(貸駐車場もありますが・・)
Photo by abitarearoma.it
つまりコルティーレには、イタリア人の親密な日常も隠されているのですね。道を歩いていてもその建物の中に入らなければ、その魅力を目にすることはできません。美しいイタリアの街並みを一通り楽しんだら、ぜひ開きっぱなしの建物のドアを探してみましょう。そこにはアナタの知らないイタリアが待っているかもしれませんよ。
建物のドアの向こうには、アパートの守衛さんが駐在していることがあります。その際にはニッコリ笑顔でコルティーレが見たいと伝えてみましょう。
『ミピアチェレッベ ヴェデーレ クエスト コルティーレ、セ エ ポッスィービレ(Mi piacerebbe vedere questo cortile, se é possibile)』
イタリアの街歩きのまた一つの楽しみになることでしょう。
この記事を書いた人
Jeera
2008年よりイタリア在住。ミラノ、サンタマルゲリータリグレ(リグーリア州)、カナゼイ=カナツェーイ(ドロミテ山脈、南チロル)の3都市より、イタリアの気になる楽しいおいしい情報をお伝えします♪
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