イタリアの室内履き専用スリッパ、パントーフォレ(またはチャバッテ)。ローマ教皇も常用する気になるイタリアの室内履き習慣を探ってみましょう。
Photo by pickyshop.com
自宅や車内のみならず、クリニックや学校、子供の遊戯スペース、旅館、と公共施設でも、とにかく靴を脱ぐ機会が多い日本。海外旅行先のホテルで、つい靴を脱いでしまうことありませんか?室内土足OKが当たり前と思いきや、イタリアにも室内履きが存在しますよ。
パントーフォレとチャバッテの違いとは?
パントーフォレは、通常は足の指を覆ったタイプで、金具やヒモのないシンプルな履物、屋外では使用しません。
チャバッテは、足の指を覆わないタイプで、屋内屋外どちらでも使用されます。ということで、日本ほど明確に区別していないのですね。
それから、日本のパン屋さんでも見かけるチャバッタという名のパン、あれはこのチャバッテの単数形チャバッタから来ているのですね。
右パントーフォレ 左チャバッテ Photo by luxgallery.it
パントーフォレとチャバッテの起源
15世紀~17世紀のヨーロッパでは、女性用の厚底靴やくさび型ヒールのウェッジシューズ、足首を覆わないタイプの履物が登場します。これら様々なタイプの履物の総称が、"ピアネッレ(チョピン)"です。ピアネッレは、もともと街路の泥や土、人間や動物の糞から、靴やドレスを保護するための下駄のような"パッテン"と呼ばれるオーバーシューズとして使用されていました。
ヤンファンエイク1434年制作アルノルフィーニ夫妻像 Photo by en.wikipedia.org
左15-16世紀ヴェネチア 右14世紀スペイン Photo by commons.wikimedia.org
ちなみにもっと遡って、ローマ時代の女性は、家の中では靴下を履き、外出時には靴下を脱ぐという習慣があったようです。公共の場で見かけない靴下は、エロティックな意味合いでもあったとか。。
ピアネッレ(チョピン)の進化
ピアネッレは、ヴェネツィアでは遊女と貴族の女性の両方に人気があり、ヒールの高さが、着用者の文化的、社会的地位の象徴であり、ピアネッレのヒールが高ければ高いほど、着用者のステータスも比例していました。見下ろす体制が好まれたのでしょうか。スペインやイギリスでも同時期に同じように流行しています。
その後も順調にピアネッレのヒールは高くなり、高さが20インチ(51cm弱)を超えていたとか。1430年、ヴェネチアでは法律によって、3インチ(8cm弱)に制限されていましたが、この規制は広く無視されていました。この時代から、あまり規制に遵守しない傾向があったようですね。。
15世紀ヴェネチア Photo by vanillamagazine.it
それにしても見るからに危ないこのピアネッレ、ダンスをしていたという説もありますが、通常、着用する際や歩行時は、二人の使用人の助けが必要だったようです。ヴェネチア商人たちは、家を留守にする際、婦人が外出して裏切り行為に走らぬよう、この高いヒールのピアネッレを履かせることで、外出しずらくしたとも言われています。
Photo by allthatsinteresting.com
当時のピアネッレは、木やコルクで作られています。そのベースをドレスや靴と同じ生地で覆い、錦織、革、宝石、と豪華な装飾が施されました。が、実際スカートの下に隠れてしまい、あまり人目につくことはなかったようです。
Photo by collectorsweekly.com
19世紀初めに、ようやく現代のパントーフォレの形に近づきます。ヒールの重要性はなくなり、上品で快適な洗練された履物として、踵の出るタイプ、踵を覆ったタイプ、どちらも使用されるようになります。サテン地に刺繍や宝石をちりばめたパントーフォレに、シルクのストッキングを組み合わせるのが、当時の流行りでした。耐久性のなさそうなこの時代のパントーフォレを、屋外でも常用していたそうで、マリー・アントワネット王妃やジョゼフィーヌ皇后は、約500足のパントーフォレを所有していたとか。
ジョゼフィーヌ皇后のパントーフォレ Photo by dejavuteam.com
いつから屋内屋外で履き分け始めたの?
19世紀終わりに、寝室を中心に履く、屋外では履かないパントーフォレが、市民の習慣になり始めたようです。ですがローマ教皇は、すでに19世紀前半まで、屋外で履く靴と、ミサで履く屋内用パントーフォレを分けていました。これは聴衆がひざまづいて教皇のパントーフォレにキスするためだったようです。
ピウス6世のパントーフォレ Photo by wikiwand.com
ピウス7世ポートレート Photo by Jeera
日本のスリッパ文化はいつから?
19世紀初め、開国に伴い多くの西洋人が日本に訪れ始め、室内で靴を脱ぐ習慣のない西洋人のために、仕立て職人徳野利三郎が、靴の上から履くことのできる上履きを発案しました。これが日本のスリッパの原型と言われています。
さいごに
気が付けば室内履きパントーフォレもチャバッテ同様、その快適さからか、現在、フォルムをそのままに屋外でも使用され、さまざまな素材の豊富なデザインで流通していますね。つまりイタリアでの室内履きは、その形状にこだわらず、個々に好みの屋内専用スリッパを使用しているようです。
ですがイタリアで来客に、パントーフォレを差し出し、靴を脱がせることはNG。履いてきたズボンを(汚いから)履き替えてというようなものだそう。
日本ではサンダルの一種でもあり、デッキシューズの一種でもあるパントーフォレ、アナタのシューズボックスにもきっと1足以上あることでしょう。
Photo by allure.com
番外編
玄関にシューズボックスがないことの多いイタリア。どこに履物を収納しているのかというと。。寝室やトイレ、廊下、クローゼット等、なかなかユニークです。
この記事を書いた人
Jeera
2008年よりイタリア在住。ミラノ、サンタマルゲリータリグレ(リグーリア州)、カナゼイ=カナツェーイ(ドロミテ山脈、南チロル)の3都市より、イタリアの気になる楽しいおいしい情報をお伝えします♪
Jeeraの他の記事を読む