ワイン生産者美濃和駿さん 自然の奏でるハーモーニーに魅せられて

イタリアに魅せられ、イタリアで活躍する日本人に話を聞いてみよう!記念すべき初回は、エミリア・ロマーニャ州トラーヴォ(Travo)ワイン生産者の美濃和駿さん。イタリアワイン雑誌『Interavino』にも取り上げられた期待の星です。

ワイン造りは生態系のハーモニー

Q いつもSNSなど拝見していますが、とても楽しそうにワイン造りをされていますね!

A ここトラーヴォで畑を二つ借りて、ヴィーニナチュラーリ(Vini Naturali*)と呼ばれるワインを作る生産者たちの流れを受け継ぎながら活動しています。2016年にイタリアに来て、2018年から自分のワイン造りを始め、もうすぐ最初の商業用のビンテージが出来上がります。*筆者注:イタリア語でVini は「ワイン」、Naturaliは「自然な」を意味する

Q ヴィーニナチュラーリとは?

A 近代ワインの作り方というのは、ブドウを収穫したらまず殺菌を行い、酵母を選んで投入して発酵させることが多いんです。テロワールという言葉がありますが、ブドウの木と土地の関係に最重点をおくんですね。ヴィーニナチュラーリはこれとは異なり、畑でもカンティーナでの醸造中もケミカルな物質を使いません。さらに僕の畑では、ぶどうを取り巻く全てを重視したいと考えています。木、土地、植物、バクテリア、菌類、などなど全てが一つのエコシステム(生態系)として繋がりあってぶどうの生育に影響を与える。オストゥルーゴ(Ortrugo)という搾りたてのリンゴジュースのような香りを持つ、この地方でのみ収穫されるぶどうを使っているんですが、収穫後はそのまま何もせずタンクに入れます。すると今度は、タンクの中で新しいエコシステムが生まれる。選択された酵母を使用するより、自然酵母の力で生まれたワインは味に奥行きがあり、複雑さが別物になります。僕にはその地に足がついたやり方が合っているし、この自然のままのエコシステムに向き合うのが楽しくて。

オストゥルーゴ(Ortrugo)というぶどう品種

東大、スペイン、チリ、そしてイタリアへ

Q なぜイタリアへ?

A 大学院を卒業して最初はスターバックスで店舗運営をしていました。その後ワインの世界に入り、2011年29歳の時にまずはスペインへ、次にチリへ渡りました。スペインではリオハの醸造学校で醸造学を学び、また、なかなか日本人を雇ってくれるところがなかったので食べていけず、風俗ライターのバイトをしたりしました(笑)。イタリアに来たのは2016年、ヴィーニナチュラーリ生産を牽引するラ・ストッパ(La Stoppa)での研修生の仕事が見つかり、そこで運よく社員になり、次に畑を借り自分のブドウ栽培を初め、、、という展開です。



Q 東京大学大学院卒ということですが、大学ではどんなことをされていたんですか?

A 生物学を学び、絶滅動植物をどう保護するかの研究に取り組んでいました。90年代の保護政策は、その絶滅危惧種のみを対象にしていたのですが、最近では、絶滅危惧種を取り巻く生物系全体にフォーカスするコミュニティエコロジー(群集生態学)が、ある特定の問題を解決するために必要な視点とされてます。絶滅危惧種の動植物を保全するのは目的の一部で、その場所に存在するその土地由来の生態系が、外来生物の侵入によってどのように影響を受けるのかを研究してました。ちょうど環境省が特定外来生物を指定して個体数を管理し始めてた時代でした。

Q ということは、ワインの生産と異なるように見えて、実は同じ生態系への興味というのがベースにあるのでは?

A 確かにそうかもしれません。ただ、僕は研究よりこういった仕事が好きですね。あと、仕事中に堂々と飲めますし!

取材当日はナポリから新樽が到着

この地への想い

Q これからの夢はなんですか?

A ここトラーヴォの地に受け継がれるヴィーニナチュラーリの流れを踏襲して、次世代に繋いでいくことでこの地に恩返しをしたいです。この地方は、元々はワインの生産がとても盛んなところだったのですが、若い人が都会に移住してしまってワイン業を継ぐ人が減っています。もともとブドウ畑だったのに、更地になっているところがたくさんあるんです。このままではワイン業が衰退してしまうと危惧しています。

INTRAVINO 記事はこちら イタリアのワイン誌で取り上げられた期待の星



小さな違和感に向き合うことで道が開ける

Q 輝いている箕輪さんから読者に向けて最後に一言お願いします。

A 日本ではワインていうカルチャーがカッコイイものとしてフローしていて、とても違和感があった。カッコよさよりも、何百・何千年前からあるワインが、どう生活に根付いて、人と人との関係の中に位置づけられているか理解したかったし、そのためには海外に行くことが必要でした。ある意味逃げたのかもしれないし、それは悪いことではないと思っています。何かをする時に感じる小さな違和感を抱えながら仕事をしているとしょんぼりしてしまう。嫌なことも時には必要ですが、本質的に自分が大切に思っていることを突き詰めることが大事だと思うので、その小さな違和感が何だったのかにきちんと向き合っていけば、必ず次の道が開けると思っています。

もうすぐ初めての商業用ビンテージが瓶詰めされる

キラキラ輝いている箕輪さん、どうもありがとうございました!

 

ライター
ITALIAMO 編集部

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