イタリアに魅せられイタリアで活躍する日本人に話を聞いてみよう!第二回は、ミラノで着物事業を運営しながら、イタリアでの着物文化の普及を目指す池田眞美子さん。50歳からの挑戦を可能にする秘訣とは?
イタリアで着物?
Q ミラノで着物事業を運営されている池田さん。どんなサービスをされているのでしょう?
A 和寂(WAJAKU)という着物サービスをミラノで展開しています。事業としては大きく分けて2つあります。ひとつは主に現地に住む日本人相手の着付けサービスで、冠婚葬祭のお手伝いをしています。もうひとつがイベントサポートで、イタリア企業が和に関連するイベントを開催するときに、着物のデモンストレーションを行ったり、プロモーションを行ったりしています。例えば、イタリアでは浮世絵展が非常に人気があるのですが、北斎の前で現代風や江戸風の着付けのデモンストレーションを行ったことがあります。また、2015年のミラノ万博の際は、イタリア企業だけでなく日本企業のイベントもいろいろありました。ミラノ万博の後は日本食屋の進出も多かったので、数々とお手伝いさせていただきました。事業を始めて10年になりますが、手探りしながら臨機応変に対応しています。
Q イタリアというとイタリアファッションのイメージが強いですが、着物に対する皆の反応はどうですか?
A 開業して初めの半年くらいは泣かず飛ばずでしたが、徐々に日本人、そして口コミでイタリア人がきてくれるようになり、認知が高まったと感じています。着物に対する反応はポジティブで、イベントでは人だかりが出来ますし、また街を歩いていると必ず声をかけられて「素敵だね」と言って頂けます。毎年ファッションウィークの時期に、日本人が経営しているエノテカワインさん(ワインショップ)と着物貸し出しサービスのコラボレーションを行っているのですが、お客様がこれまで二度もファッション雑誌 Vogue のサイトに載ったんですよ!
ブレラ図書館でのデモンストレーション
50歳からのイタリア移住
Q 10年前に50歳でイタリア移住に挑戦され、新規事業を立ち上げたということですが、すごいエネルギーですね!背景を教えて頂けますか?
A イタリアに来る前は、アニメのシナリオライターを25年間やっていました。2人の男の子の子育てと両立していたので、家でもできる仕事を選びました。子供たちが徐々に大きくなるなかで、子育て後のプランを考えて、のんびり旅行でもするかとも思ったのですが、50歳で新しいことを始めたら65歳で新しい花が咲くと思い、外に出て新しいことをやろうと思ったんです。
Q イタリアで着物というコンセプトはどこから?
A 慶應大学の学生時代、フィレンツェに短期語学留学をしてイタリアのことが好きになりました。また、ファッションが好きでテキスタイルのバイヤーに興味があり、卒論は安土桃山時代の着物、辻が花をテーマにしたものでした。テキスタイルは生地が大事で、着物の織りに共通するものがあると思っています。また、仲の良い祖母が毎日着物を着ていたので愛着がありました。子育て後に外に出て何をしようかと考えたときに、こうした点と点が繋がって、イタリアで着物と決めました。それで5年かけて着物を学びました。
Q 実際に来てみてどうでしたか?
A 最初は学生ビザを取得し、ミラノの IED(ヨーロッパ・デザイン学院)のマスターコースでファッションマーケティングを学んだんです。20代の同級生と一緒に、英語の授業、ファッションビジネスの経験不足、課題のプレゼンテーション、イタリア語での生活、などとにかく大変で、血尿が出たこともあります。手に負えないことばかりでしたが、だんだんと慣れて最後は怖いものがなくなりました。無我夢中でしたが今思えば楽しかったです。
2012年 リナシェンテデパートでの着物イベントに駆けつけてくれたクラスメイトたちと
2020年 ビィットリオ・エマヌエーレ2世ガレリアの中にある老舗お菓子店パスティチェリアマルケージ(Pasticceria Marchesi)の前で
ドレスと並ぶワードローブの選択肢の一つに
Q 今後の展開はどう考えていますか?
A イタリアで着物サービスを提供していて、テレビにもラジオにも出たし、日本の老舗との繋がりもできましたが、このままでは広がりに限界があるのかなと感じています。人と人の縁をつなげて、いつか着物美術館をつくるのが夢です。例えばファッション学校の生徒に来てもらって着物の細部にある意味を学んでもらったり。着物は着付けによって柔軟にドレス風に着こなすことができますから、着物を切って洋服にするとかバックにするのみならず、イタリアに合う着こなしを見つけて、着物がドレスと並んでワードローブにある選択肢の一つになったらいいですね。先祖代々の流れをつないで、着物文化も職人技術も途絶えて欲しくないです。
Q 最後に読者の方にメッセージを御願いします。
A 職人さんのように一生同じことを続けるのもとても素敵だと思っているのですが、もし違うことをやることに興味があったらやってみるというのも選択肢の一つなのではないでしょうか。人生の転換点というのはなかなか見つからないかもしれないけれど、準備をしてアンテナを張っていないと機会があっても気づかないですよね。機会が見つかって、それで人生が変わるかもしれないし、やってみて合わなかったら戻ればいい、そんな風に考えています。
WAJAKUのインスタグラムで紹介される様々な着こなし
着物を着こなす上品な振る舞いの中に、しなやかな強さを感じる眞美子さん。どうもありがとうございました!
ITALIAMO編集部