チョコレートが有名で、カフェ文化が根付く、かつての首都トリノ。トリノで愛される名物ドリンク「ビチェリン」とは。
エレガントで活気のある町トリノ
トリノは、イタリア全土が統一国家になったとき、イタリア王国の最初の首都となりました。現在では、イタリア北西部に位置し、ワインやトリュフが有名で、スローフードの発祥地としても知られるピエモンテ州の州都です。ミラノに次ぐ第二の工業都市であり、フィアットなどの自動車工業を中心に発展を遂げてきました。活気があるのにどこか落ち着いていて、気品ある雰囲気は、かつての貴族の町の名残を感じさせます。
世界遺産に登録されている「サヴォイア家の王宮群」の他、エジプト博物館、国立映画博物館、国立自動車博物館、ラヴァッツァミュージアムなど、バラエティに富んだ美術館・博物館が40館以上あり、観光面でも充実した町。有名なコーヒーメーカーのラヴァッツァ、ジェラートチェーン店のグロム、イタリアではおなじみのグリッシーニ(サクサク・カリカリした細長い棒状のパン)やトラメッツィーノ (サンドイッチ)などもトリノで生まれました。
町の中心にあるサン・カルロ広場
カステッロ広場にある王宮(正面の白い建物)
中央に見える建物は、トリノのシンボル、モーレ・アントネッリアーナ。中は国立映画博物館になっています。塔の上は展望台になっており、トリノ市内を一望できます。
モーレ・アントネッリアーナの展望台から見える景色。トリノの碁盤の目のような街路も展望台からはよく見えます。
ポー川沿い
国立自動車博物館内で発見した、Fiat500とモーレ・アントネッリアーナ
トリノとチョコレート
チョコレートの町として知られるトリノ。トリノとチョコレートとの長い歴史は、1563年にサヴォイア公国の首都がシャンベリからトリノへ移ったことを祝うため、サヴォイア家のエマヌエーレ・フィリベルトがトリノの人々に初めてホットチョコレートを振る舞ったことから始まります。19世紀初めには、新たな技法でカカオ、バニラ、水、砂糖をまぜることにより固形チョコレートの製造が可能になりました。諸説はありますが、それまで貴族の間で飲み物として楽しまれていたチョコレートが、固形チョコレートに変化を遂げ、一般市民にもチョコレートが愛されるようになったのは、トリノが発祥だといわれています。
トリノやピエモンテ州で一番有名なチョコレートといえば、カファレル社が生み出した、チョコレートにヘーゼルナッツを混ぜた「ジャンドゥイオット」。個別包装された初めてのチョコレートであり、カカオの入手に制限がかかった時代にピエモンテ州の特産物であるヘーゼルナッツと混ぜて作られたという、ピンチをチャンスに変えたアイディア商品。カカオ不足から生まれたジャンドゥイオットは、今では世界中で愛されるチョコレートとなりました。チョコレートの町トリノでは、年に一度、Cioccolatòというチョコレート祭りが開催されており、試食やチョコレートショー、チョコレート教室など、多彩なプログラムでチョコレートを楽しめます。
台形型のチョコレート、ジャンドゥイオット。イタリア語で、ジャンドゥイオット(gianduiotto)は単数形なので、複数になるとジャンドゥイオッティ(gianduiotti)へ語尾が変化します。
トリノの人気チョコレート店、Guido Gobino。トリノだけでなくミラノにも店舗があります。日本に常設店はありませんが、バレンタインシーズンには、日本でも百貨店などで見かけます。どのチョコレートも美味しいですが、筆者一押しはクレミーノ・アル・サーレという塩気が口に広がる定番商品のチョコレート。
トリノに根付くカフェ文化
トリノには、古くからの老舗カフェがたくさんあります。そのため、洗練された歴史的なカフェの町としても知られています。イタリアのカフェというと、「バール」と呼ばれる場所で、エスプレッソやカプチーノをカウンターでさっと飲み、バリスタやまわりの馴染みの人と少し言葉を交わすだけで長居しないスタイルが一般的。しかし、トリノはサヴォイア家を通じて、フランス文化の影響を受けているためなのか、カフェのスタイルもフランスに近い印象です。19世紀には、トリノのカフェは政治討論や文学サロンなどの場になっていました。政治家やインテリ層のほか、イタリア統一を志す志士たちの交流の場でもあり、イタリア国家統一もカフェなしにはあり得なかったかもしれない・・・と言われることも。今では、休憩目的や、コーヒーやお菓子などを味合う場所となり、ゆったりと時間を過ごすことができます。
創業約200年のカフェ・サンカルロの入り口
トリノには内装が豪華な老舗カフェがたくさん。カフェ巡りが楽しい街です。
ビチェリン
トリノで欠かせないものといえば、名物ドリンクの「ビチェリン」。ビチェリンはエスプレッソ、チョコレート、牛乳でできたホットドリンクです。トリノ周辺以外の地域では、なかなかメニューにないため、ビチェリンを飲むためにトリノに行くという人も多々います。ビチェリンは1763年創業のトリノの歴史的カフェ、カフェ・アル・ビチェリンで誕生しました。18世紀によく飲まれていたバヴァレイザというエスプレッソ、チョコレート、牛乳、シロップでつくられた飲み物の進化形として生み出されたのがビチェリンです。バヴァレイザは大きなグラスで提供されていましたが、ビチェリンはより小さなグラスで提供される飲み物のため、ピエモンテ方言で小さいグラスという意味をもつ「ビチェリン」という名前がつけられました。はじめのころは、エスプレッソ、チョコレート、牛乳の3つの材料が、エスプレッソと牛乳でできたカプチーノのようなもの、エスプレッソとチョコレートからできたもの、全ての材料を少しずついれたもの、と3つに別れてビチェリンとして提供されていました。その後、19世紀にはひとつのグラスにまとめて提供されるスタイルに変わり、現在でもそのスタイルが維持されています。今では、カフェ・アル・ビチェリン以外のカフェでもビチェリンを楽しむことができますが、甘めだったり、苦めだったりと、味はお店ごとに少しずつ異なります。カフェ巡りをし、自分好みのビチェリンを探すのもトリノ滞在の醍醐味といえるでしょう。日本にもカフェ・アル・ビチェリンの店舗がありますので、日本で飲むビチェリンとイタリアで飲むビチェリンの飲み比べも面白いかもしれません。
カフェ・アル・ビチェリンのビチェリン。手前のケーキはビチェリン味のケーキです。いくつかのカフェでビチェリンを飲みましたが、筆者はここのビチェリンが一番好みでした。
カフェ・アル・ビチェリンの正面。
トリノで飲んだ他のビチェリンたち。
メニューにないビチェリンをローマのバールで頼んでみました。ビチェリンにあまり詳しくないバリスタだったためか、トリノのビチェリンとは別物のようなドリンクが出てきました。やはり、トリノのビチェリンは格別です。
この記事を書いた人
MAYUKO
初めての海外旅行で訪れたのはイタリア。そこからどんどんイタリアにのめり込み、大学院在学中にイタリア留学を決意。大学院での研究テーマはジュゼッペ・ヴェルディ。一度は日本へ帰国・就職するも、イタリアへの想いが忘れられず、2019年に再びイタリアへ戻ることを決意。現在ミラノ郊外在住。
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