なぜ流行る?日本で定番のイタリア菓子

2021年日本で大ヒットしたイタリア菓子といえば、マリトッツォですね。流行語大賞にノミネートされるほど、日本全国で大流行したマリトッツォ。これほどの大ブームを巻き起こしたイタリア菓子は1990年代のティラミス以来では?
今回は、日本で流行った(定番化した)イタリア菓子とその流行った理由について探ってみたいと思います。

2021年大流行!マリトッツォの人気の秘密

Photo by ohsaka on Photo AC

今や、日本のコンビニエンスストアでも販売されているマリトッツォ。すっかり市民権を獲得し、風格さえ感じられます。
もう皆さんご存知の通り、ふわふわのブリオッシュに似た生地に、たっぷりの生クリームが詰まっている、なんとも可愛らしい見た目のお菓子ですよね。

イタリアはローマが発祥と言われるマリトッツォ。なんと古代ローマまで遡るのだとか。
古代ローマでは、生クリームは挟まず、パンだけで食されていたようです。
やがて時代がくだり、生クリームを挟みデザートのようなパンに変化。生地には木の実や砂糖漬けの果物が加えられるなど、より甘いパンになりました。

現代のマリトッツォは、丸いパンにたっぷりの生クリーム、というのが定番ですが、ローマ以外の街でもたまにバールやパスティチェリア(お菓子屋さん)などで販売されています。
お店によっては、その場でクリームを詰めてくれるところもあるので、出来立てを味わうのも楽しみの一つです。

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さて、そんなマリトッツォはなぜ日本でここまでブームになったのでしょうか?

なんと、福岡のアマムダコタンというベーカリーというが、火付け役と言われています。
アマムダコタンは、2018年に開業したお店で、日本各地からパン好きが訪れるという人気のベーカリー。
その店主・平子良太さんは、豊かな経験とセンスあふれる商品で、多くのファンを魅了。そんな平子さんが挑んだ商品がイタリア菓子の「マリトッツォ」でした。
2020年4月頃から販売が始まっていたようで、シンプルなものからフルーツをはさんだもの、乳製品、動物性脂肪を使用していないヴィーガンマリトッツォなど、革新的な商品を販売し、そのたびに、SNSで“バズ”り、福岡を中心にまねして作るお店が増えてきたようです。

さらに、2020年11月にカルディコーヒーファームが、マリトッツォを発売し始めてたから、徐々に全国に知られるようになっていきます。
人気セレクトショップのディーン&デルーカやイタリア食材店イータリーなどでも取り扱われるようになりました。

こうした人気ショップなどでの発売により、若者の間での人気に火がつき、注目を集めるように。
言うまでもないことですが、昨今の流行の発端といえば、SNSですよね。
インスタグラムなどを通じた、マリトッツォのいわゆる「写真映え」する画像が、人気に拍車をかけました。

日本人は元来スイーツ好き。
特に硬めのものではなく、柔らかい生地、そしてクリームが大好き。マリトッツォは見事に当てはまりますね。

しかもマリトッツォの材料は、パン生地に生クリーム、ととてもシンプルなスタイルがよりウケたのではないでしょうか。
『外国の横文字のお菓子』でありながら、材料がシンプルで親しみやすい。日本では手に入らない、しかも味の想像がつかない材料、ではない「自分でも作れるかも?」という、想像ができるお菓子。親しみを感じるのだと思います。さらに、見た目も可愛らしい。
そういえば、和菓子はお団子やお餅など丸いフォルムのものが多いですよね。無意識に安心感を感じるのかもしれません。

さらに、時代はコロナ禍。
世の中はテイクアウトすることが、主流になりお店でゆっくりデザートを味わうよりは、気軽にテイクアウトしたい。
さらに「映える」見た目。
そういった時代的背景もあり、マリトッツォは日本で大ブームを巻き起こしたと考えられます。

さてさて、2021年大流行したマリトッツォですが、流行に敏感な反面、冷めるのも早い日本人。
このマリトッツォブームはこのまま続くのでしょうか。




バブルの寵児?元祖イタリアンデザート、ティラミス

Photo by Victoria Alexandrova on unsplash

ティラミス。
イタリア好きの方なら知らない方はいない、と言えるほど、イタリアンデザートの代表とも言える存在ですよね。

エスプレッソ液を染み込ませたサヴォイアルディ(フィンガービスケット)とマスカルポーネのクリームを交互に重ねて、最後にココアを振りかけるデザート。

ティラミスは長い歴史を誇るイタリアの中では珍しく、20世紀後半と比較的最近生まれたデザートです。
発祥について、いくつかあるものの一番有力なのは、ヴェネト州トレヴィーゾのシェフがバニラアイスクリームを作る途中に誤って、マスカルポーネを使ったことが始まりという説。偶然から生まれたそのお菓子は、とても美味しくシェフは試行錯誤し、ついにはエスプレッソに浸したフィンガービスケットと、ココアを振りかけるという手法を生み出し「ティラミス」を作り上げました。

ティラミスは、イタリア語で「tira mi sù(私を引っ張り上げて→元気づけて)」という意味を表し、その名の通り、風邪や疲労時の元気づけにもなるなど「食べたら元気が出る」デザートとして、イタリア人からも広く愛されています。

そんなティラミスが日本で大ブームとなったのは、1990年代。1990年代初頭、バブル真っ只中でブームとなったイタリア料理ブーム、通称「イタ飯」。しかし、最初イタ飯ブームは起こるものの、ティラミスはまだヒットしていませんでした。
そこで、ヒットの火付け役となったのが女性雑誌『Hanako』。ティラミスを雑誌で取り上げたことがきっかけとなり、テレビ番組にも取り上げられ、やがて洋菓子店やレストランなどでも扱うようになり、大ブームが巻き起こりました。
やがて、ファミリーレストランやコンビニエンスストアでも購入できる身近なスイーツに。
現代の日本では、ティラミスはすっかり市民権を得てますよね。

Photo by canva

さてそんなティラミスが、一過性のブームに終わることなく、”日本のスイーツ”として定着したのには、どんな理由があったのでしょうか?

まず、第1に作り方の単純さ。マスカルポーネ、エスプレッソ液をしみ込ませたサボイアルディ(ビスケット)、そしてココアパウダーと、シンプルな材料で作られるティラミス。
マスカルポーネやサボイアルディ等、本場の材料が手に入らずとも、代用品としてクリームチーズを使ったり、どこでも手に入るビスケットを使うなど、一般的に作りやすいレシピを日本人は考案しました。
ちなみに、マスカルポーネの代替品としてマスカポーネというものも、生まれたそうです。

第2に、名前の覚えやすさがあげられるのではないでしょうか。
「ティラミス」と表記すると5音、音にすると4音。また、イタリア語はローマ字読みということもあり、日本人には馴染みやすい言語でもあることが特徴でしょうか。
ただ、イタリア語を学習された方なら想像が付くと思いますが、日本人の発音する「ティラミス」とイタリア人が発音する「tiramisù」はだいぶ違いますけどね。

こうやって、すっかり「市民のお菓子」になったティラミスは、日本人のスイーツの一つとして不動の地位を獲得したようです。




番外編:パネットーネ

Photo by guanabarino on pixabay

前に挙げた二つのお菓子に比べると、日本ではまだそこまで定着しているとはいいづらいですが、クリスマスの定番お菓子「パネットーネ」も、日本でだいぶ見かけることが増えました。

パネットーネは、ミラノ生まれのお菓子。
パネットーネの由来のひとつが「パン・デル・トーニ」という説。
昔、ミラノのルドヴィコ・イル・モーロに仕えていたシェフ見習いのトーニは、クリスマスイブの食事で、シェフが焦がしたケーキの代わりに、手持ちのドライフルーツで味付けしたパンと差し替えたと言われています。
このレシピが評判となり、後にこのケーキのことを「トーニのパン」を意味する「パン・デル・トーニ」、つまり「パネットーネ」と呼ばれるようになりました。

パネットーネは、ドライフルーツの入った発酵菓子。ケーキというよりは、パンに似た食感が特徴。合計4回も発酵させて作るため、長期保存がききます。
イタリアのクリスマスに欠かせないお菓子です。

さて、そのパネットーネですが、数年前までは輸入食品店の片隅、またはイタリア食材を扱うレアなお店くらいにしか置いてありませんでしたが、現在はカルディコーヒーファームなどでは色々なサイズのパネットーネが並びますし、一部のパン屋などでもクリスマスの期間限定商品として見かけるようになりました。

おそらくこちらも、SNSなどで、クリスマスを楽しむ姿や外国生まれのお菓子として「映える」スイーツのひとつに数えられつつあるからではないでしょうか。

ちなみに、イタリアではパネットーネと人気を二分するパンドーロは日本では残念ながら、まだまだ一般的なお店に並んでいる姿を見たことはありません。




まとめ

Photo by canva

今回は日本で定番化した(しつつある)お菓子を取り上げました。
イタリアのお菓子は、フランス菓子などにくらべるとまだ日本での知名度は低いかもしれませんが、ティラミスやマリトッツォのように、すでに市民権を獲得したお菓子も台頭してきています。でも逆に知名度が低い分、イタリアという国への憧れ・親しみも相まって、イタリア菓子が爆発的にヒットしたのかもしれません。

それにしても、若干、日本に馴染みすぎて、イタリアのそれとはちょっと見た目や味が変化したものもあるかもしれませんが、その違いを楽しむのも楽しいですよ。

#ドルチェ

 

この記事を書いた人
YUKAKO
夫の転勤に伴い、ローマに1歳の娘を連れて渡伊。イタリア人の子ども好きで面倒見の良さに感激する。また、現地のイタリア料理教室にも通い、イタリア料理の奥深さに触れる。子育て中の母親の視点、また料理好きの視点で、イタリアの魅力をお届けできればと思います。
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